第四回
■カリスマ店長の失敗談
ある婦人服店の店長に聞いた話です。
その店にあるお客さんが来ました。熱心に商品を見ています。店長が近寄って話をすると機嫌よく聞いてくれます。そこで(これなら数万 円は売れそうだわ)と思いました。
それなのに、しばらくしたら何も買わないで帰ってしまいました。店長は(あれ!?どうして!?)と思い ました。
そういうことが三回も、四回もつづきました。疑問はいっそう深まりました。
(何かが変だ。何だろう???)と思いつづけているうち、ふと気づきました。
(私はいつも「これなら売れそうだ」ということばかり思っている。それは売りたい、売りたいと思っているからだわ。そうだ、そういう さもしい気持ちが気づかないうちにお客様に伝わってしまうのだわ。わかった。これからは、売りたいという気持ちを捨てよう。私の店に 来てくださってありがとう。商品を見てくださってありがとう。私の話を聞いてくださってありがとう。長い時間、店にいてくださってあ りがとう。ただ「ありがとう」という気持ちだけでおもてなしをしよう)そのように心に決めました。
それからです。不思議なことが起こったのは。
どういうわけか、お客様が増えてきました。そして、どんどん売れるようになったのです。
私は、この話を聞いたとき、不思議な話だと思うだけで、さっぱりわかりませんでしたが、感動したので忘れませんでした。
それから数年たったころ、大阪の婦人服販売店の優良店の経営者を集めた所で講演する機会をいただきました。そこで、例の店長の感動 した話を紹介しました。そうしたら、女性経営者だけが敏感に反応するのです。
私は(さすが優良店の経営者だ)という思いと(男性経営者が鈍感であること)の二つをしっかり印象に残しました。
私は「心理的コミュニケーション」というものの不思議さに、いっそう興味を持つようになりました。そういうことにこだわっているうちに、三つの興味深い情報を見つけました。
1 目のコミュニケーションの支配力は87%もある
2 人間は「好きなこと」に比べて「嫌なこと」には数万倍敏感である
3 言葉のコミュニケーション力は、わずか8%にすぎない
4 脳波は一瞬のうちに地球を一周する
■非言語コミュニケーションの退化
昔から「目は口ほどに物をいい」といいます。
『読心術』(多湖輝 光文社)というミリオンセラーもあります。
それは、言葉を使わないコミュニケーションが存在しているということを示しています。
ところが、現代は言語コミュニケーションの時代です。マスコミ媒体が発達して、ぼう大な言語情報が、社会を埋めつくしているからです。
このような状況の中に住んでいると、言語情報と非言語情報の量の差は、百対一、いや千対一というように、言語情報が圧倒的に多くな っていることに気づくのです。
人間の体は、どの部分でも使えば発達します。逆に使わなければ退化します。
現代人の私たちは、聞くマス・メディアにふれることが非常に多くなっています。テレビもラジオも機械です。それは一方的なコミュニ ケーションです。コミュニケーションはツウウェイ、つまり、相互に、両方から話してこそ心がかようのです。互いに相手の態度や表情か ら何かを感じて歩み寄っていくことが大切です。そして、そういうことが、非言語コミュニケーションの能力を育てているのです。そのこ とを思うと言語情報のはん乱が、非言語コミュニケーションの能力を退化させていることがわかるでしょう。人の心をつかめなくなったのは、そのためです。
人の心がつかめなくなると、友人ができなくなります。このごろ、うつ病や閉じこもりの
人が多くなって社会問題になっていますが、そ の最大の原因は、非言語コミュニケーション能力が退化したということにあるのです。
非言語コミュニケーションは、すべて直観的なもので、五感の感覚器管を使っておこなわ
れています。
ある心理学者が「人間の行動は五感によってどのように支配されているのだろうか」とい
うことに疑問を持ちました。大変な苦労と努力 の結果、思いがけない結論に到達しました。
つぎのとおりです。
◎五感の働き
・視覚ー87%
・聴覚ー7%
・触覚ー3%
・嗅覚ー2%
・味覚ー1%
(『色の秘密』野村順一 ネスコ㈱参照)
この表を見ると、視覚(目)の支配力が圧倒的に大きいことがわかります。
私たちは「コミュニケーションは、言葉でいい、耳で聞くことが主だ」と思っているものです。
ところが、それは錯覚なのです。私たち の行動を支配しているものの大部分は、視覚だった
のです。
このようにいうと疑問が生まれるかも知れませんが「目は口ほどに物をいい」という言葉に
象徴される非言語コミュニケーションのこと を思い出すとよいでしょう。
ぜひ、非言語コミュニケーションに注目してください。そのようにしていると、人間の偉大さ
が、ますますわかるようになるでしょう。
■人が嫌がることに敏感な人がカリスマだ
ここで思い出さねばならないのは「人間が感情の動物である」ということです。そのことは
毎日、マスコミで報道されている事件のこと を思えば改めて自覚できることです。
私たちは、喜怒哀楽の感情に支配されています。喜怒哀楽と四つに分類していますが、
その中でも「怒り」というものがケタ違いに強烈 です。殺人事件や戦争は、すべてこの怒り
から生まれてきます。
ギリシャの哲人セネカは「人間の頭脳の奥には悪魔がかくれている」といいました。
人間は怒ると狂人のようになってしまうのです。どうして、このようなことになるのでしょうか。
ポッカ・コーポレーションの高木富三副社長(元)は、そのことをつぎのようにいいました。
「人間は嫌なことに数万倍敏感である」
確かにそうです。私たちは、よいことには鈍感ですが、悪いことに対してはきわめて敏感な
のです。そして(嫌だ!)と心の中で思うと、 すぐ表情や態度の中に出てしまうのです。そして、ここに「カリスマ・セールス」を理解するカギがかくれています。
私たちは「トップ・セールスマンは、何をしているから売れるのだろうか」と考えがちです。し
かし、それは錯覚なのです。トップ・セ ールスマンは、客が嫌がることをしないように最大の努力をしているのです。そのことは「カリスマ店長の失敗談」を思い出していただく と納得でき
るでしょう。
カリスマ店長の失敗は、心の中でひそかに(数万円売れる!)と思ったことでした。それは気
づかないうちに売りたがっているということ です。押し売り的ムードを、匂わせているということです。お客様は、そのようにささいなことにも敏感なのです。
私にも客として同じような経験があります。
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